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続・北御門二郎さんのこと

人生は不思議なもので、下に北御門さんのことを書いて8時間後、初めて入ったカフェで、北御門二郎さんと親交のあった知人たちにばったり出くわした。当然、北御門さんが亡くなられた話になった。知人のひとりはこの2月に北御門さんを訪ねて、直接お話を聞いている。私が伝えるのは完全な役不足というものだが、せっかくなので、その方から聞いた話を少し書いておこう。北御門さんが兵役を拒否されたというのは、トルストイの影響を受けて、ということになっているが、2月に北御門さんご本人が実はそうじゃないということをおっしゃっていたという。

トルストイに傾倒する前から、北御門さんは「人間が人間を殺す」ことは間違っていると考え続けられてきたそうだ。そのようなことに自分が加わるようなら、球磨川に飛び込んで死のうと何度も考えたという。しかし、死ぬくらいなら「はっきりと言ってしまおう」と考え直し、兵役拒否を宣言されたというのだ。その後、トルストイを読んで、自分の思想と重なるものをみつけたということらしい。

北御門さんがトルストイを訳すようになったのは50歳を過ぎてからというのも初めて知った。最初は既存の翻訳の間違いを指摘しただけだったが、「それなら、自分で訳してみぃ」という声があがり、仕方なく翻訳を手がけることになったという。その訳文は「雨が降って地面が潤うように人の心に染みとおる翻訳。戦争と暴力に反対するというトルストイの精神を現代に体現する翻訳家だった」(熊本日々新聞7.18より、ファックスでもらったものを見ているので、発言者のお名前が読めず。)

また、同じく熊本日々新聞にはモスクワに招かれて、北御門さんが行ったスピーチのことが載っている。「『私がトルストイを愛してやまないのは、彼が私どもにお互い愛し合えと教え、人類は国籍、民族のいかんにかかわらず、地球上の兄弟として、殺し合ってはならないと教えているからです』/とつとつとしたロシア語での熱弁に、二十数カ国からの参加者たちは万雷の拍手を惜しまなかった」(龍神恵介、評伝 北御門二郎さん)

信念を持ち、幸福な人生の紡ぎかたをされてきたのだなと思う。しかし、知人は北御門さんが負ってきた険しい人生も教えてくれた。今でも北御門さんのお住まいのあたり(それがどの規模を指すかわからないが)では、『うちの○○は戦争で死んだ。なのに、あの人はぬくぬくと生きている。非国民や』『あの人の家なら火をつけてもよか』ということが平気で語られているのだそうだ。戦後60年になっても、生き続ける「非国民」という言葉に息を呑んだ。かけがえのない者を失ったつらさが、ねじくれた形で現れ出る空間を北御門さんはずっと生きてこられたのだろう。北御門さんにとって家族の理解と支えが非常に大きいものだったとも知人は語っていた。

(探していた北御門さんの『ある徴兵拒否者の歩み』は、この知人が数冊を持っていることがわかり、譲ってくれることになった。ゆっくり読んでみたい)

|| コメント(0)| Track back(0) | 2004-07-19


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